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  • 山鹿市

めぐり合わせから始まる「うちわ職人の職人の仕事」

熊本の移住者の暮らしのリアルに迫る「熊本暮らしのリアルとホンネ」。今回は、好みの古民家を追い求めて山鹿市へ移住し、うちわ作り職人のキャリアを歩んでいる堤さんにお話を伺いました。

山鹿市:熊本県北部に位置する、豊かな自然環境に恵まれた市。県下一の湧水量を誇る良質な温泉、歴史・文化遺産、伝統工芸・芸能、農林産物などが自慢。令和4年7月末現在、21,985世帯49,707人が暮らしています。(山鹿市ホームページより)

理想の古民家暮らしを目指し、山鹿へ

山鹿市に移住する前は、個人でイベント関係の仕事をしていました。毎日コツコツ頑張るというよりは、仕事を詰め込んだ後は1ヶ月休みをとるなど、柔軟な働き方でした。ただ、イベント関係の仕事を何年も続けるつもりはなく、次の仕事までのつなぎや、お金を稼ぐ手段といった感覚が強かったかもしれません。

私自身、高校生の頃から古い家を自分で手入れしながら生活したいなという思いがあったので、イベント関係の仕事をやめる数年前から、好みの古民家を探したり、新しく住む場所を考えたりと、この先どんな生活をしていくのか考えながら過ごしていました。

不動産情報や空き家バンクなどを見ながら、良さそうな古民家を見つけたら、実際にその地域に行ってみて、散歩をしたり、近所の人と話したりもしました。そんな中、「あっ、この家すきかも」と見つけたのが、熊本県山鹿市の古民家です。

地方移住というと、自然の多いところで暮らしたいとか、ゆとりのある生活をしたいなど、さまざまな理由があると思いますが、私の場合は「好きな古民家で暮らす」ことが目的でした。

めぐり合わせから始めた仕事「うちわ作り」

イベント関係の仕事をしている中で、山鹿市にある芝居小屋「八千代座」(国指定重要文化財)に携わることがあったのですが、そのときに来民渋うちわのお店をやっている栗川社長と出会いました。たまたま私がものを作っている様子を見て、「お前、手先が器用だから、骨師になってうちわを作る職人にならんか?」と声をかけてもらったんです。ただ、10年以上も前の話ですし、当時は冗談だと思っていました。

私が山鹿市に引っ越すことが決まり、そのことを知った栗川社長から、改めて「職人にならないか?」とお話をいただきました。私自身、ものづくりは好きでしたが、うちわ作りのような伝統工芸に対しては、どこか厳しく、敷居の高いイメージを持っていました。ただ、栗川社長と話す中で、良い意味で伝統工芸っぽくない考え方であったり、伝わってくる人柄もあって、いつしか社長のもとで働きたいと思うようになったんです。

だから、栗川社長からのお誘いじゃなければ、断っていたかもしれませんね。

ものづくりは好きですが、それと同時に、ものづくり一本で生計を立てることは難しいとも思っていたので、家族に相談してみました。収入や生活の不安はありましたが、めぐり合わせからいただいたお話でしたので、骨師としてうちわ作りの仕事を受けることにしました。

ものづくりが好きだったこともあり、うちわを作るだけなら早い段階でできるようになりました。ただ、材料の竹の扱いが難しくて、見栄えは同じようでも、触ってみると全然違うんですよ。毎日同じような作業をしているのに、作れば作るほど奥が深くて、うちわ作りを始めて7年目の今でも、「あ、前よりもうまくなった気がする」みたいな瞬間があるんです。

うちわ作りに限らず、ものづくりって作ろうと思って作っているものではないんですよね。先代から教えていただいたのですが、「普通に会話しながらも、体が勝手に動いて作る。意識しなくてもできるようになるのが仕事だからな」と。

それでいうと、最近うちわを作っている姿をお客さんに見てもらうことがあるのですが、あまり意識することなく作業を進められているので、先代の言葉を少しは実践できているのかなと感じています。

ひとつひとつの積み重ねは小さなことですが、自分で作ったうちわをお客さんが手に取ってくれると嬉しいですし、やりがいも感じます。そういう意味でいうと、伝統工芸は地方に移住して仕事を始める人にとって、とても恵まれた環境なのかもしれませんそれこそ山鹿市では、実際にうちわ作りを体験している人も多く、子どもの頃に手伝ったことがあるみたいな人もいるんですよ。伝統工芸はその地域に密着している仕事なので、地元の人との距離もぐっと近づくと思います。

そのおかげもあり、同級生と会ったときに、「毎日楽しいよ」とか「ストレスを感じないよ」みたいなことが、この歳になって言えて、幸せだなって感じますね。

築166年の建物で、地域の人が集まるお店作り

うちわ作りの修行期間を経て独立するとなったとき、工房にする物件を探していたところ、栗川社長から築166年の歴史ある物件を紹介してもらいました。「そこを借りてみないか?」とお話をいただいたとき、古い建物が好きな私は「借りていいんですか?」と、思わず反応してしまいました。

ただ、実際に内見してみると、うちわ作りの仕事には正直使いづらい場所だったんです。しかし、「もうこんな建物を借りられる機会はないぞ」ということで、ここに決めました。

それと同時に、せっかく歴史ある建物を、うちわ作りだけに使うのはもったいないと思ったので、建物の持ち主の方と話してみたんです。すると、人が集まる場所にできたら嬉しいなという話題になり、「じゃあ食べ物屋さんをやりますか!」ということで、飲食店を始めることにしました。

私としては建物もぜひ見に来てほしいという気持ちがあったので、気軽に足を運べるような飲食店にしたいと考えた結果、決まったのがホットサンド屋さんです。ホットサンドであれば、私のお店だけで完結するのではなく、「あそこのお店もおすすめです」みたいに、次に繋げていけるイメージも持てました。あと、私がホットサンドを作るのが好きというのも理由です。

独立するまで職人一筋だった私は、分からないことも多かったのですが、身の周りの人がたくさん気にかけてくれました。独立してからは地域の事業者が集まる商工会に参加することで、同世代の繋がりができ、私としては非常に心強かったです空き家を使って何かやりたいと相談すれば、「誰々さんに聞けば分かるよ」みたいな、地元の人だからこそ知ってる情報も教えてくれました。

今では、商工会で知り合った人たちと、商店街を盛り上げるために何かできないかと話しているんです。まだまだざっくりとした目標ですが、少しずつ仲間の輪を広げていこうと活動しています。

それぞれの得意分野を活かして、地域を盛り上げる

山鹿市に引っ越してきてから、ご近所の方がとても良くしてくれますし、移住前とのギャップはありませんでした。

逆に、山鹿市に来て困ったことは特に思いつかないんですよ。強いてひとつ挙げるなら、私には2人の子どもがいるのですが、同世代の子が近所にいないことですかね。ただ、子育てに関しては支援もありますし、家族で生活しやすい環境だと思います。

今後の仕事の目標は、定期的にイベントをやっていこうと思っています。うちわ作りのワークショップや、小学生に向けた学びの機会を提供できるイベントを、地域の人たちと一緒にやっていきたいですね。もっと言えば、こうした活動を無理なくやっていくためにも、しっかり稼げる仕組みづくりをしていきたいと考えています。

ただ、同じ地域に暮らしていても、「移住者を増やしたい」「新しい職人さんを集めたい」「商店街を復活させたい」など、一人一人のやりたいことや目標は違います。だからこそ、今それぞれがやりたいことを口に出して、各々の得意分野を活かしながら、みんなで取り組むことで、より良い形になっていくのかなと思います